大田区発の地域包括ケアシステム-おおた地域見守りネットワーク(みま~も)

文字サイズ:
2009.11.10無題です
  •  電話対応を済ませ、一足先にMさん宅に向かった絵描きナースを追いかけた・・・。
     一人暮らしのMさん宅は管理人さんが鍵を開けてくれたのか、ドアが開いていた・・・。
     中に入ると、ケアマネージャー、絵描きナース、管理人さんがリビングに立っていた・・・。「やっぱり帰ってなかったのか?」絵描きナースに尋ねると、リビング横の和室に無造作に脱ぎ捨ててある着物に視線を送っていた・・・。
     たたんで整えられている布団、きちんと洗われた茶碗、仏壇には菓子パンが置かれている。和室の端には、Mさんが最期の買い物をした、土曜日の日付が刻まれているレシートが下敷きに挟んで並んでいる・・・。
     整理整頓が隅々まで行き届いた部屋・・・・。
     それだけに、脱ぎ捨てるように置いてある、着物やコルセットが嫌でも視界に入る・・・。
     「何か感じませんか?Mさんはこの部屋にいると思いませんか?」絵描きナースからの声にならない言葉が聞こえました。
     ケアマネージャーも、絵描きナースも、部屋には入ったものの、玄関横のトイレとお風呂場には行けなかったのでした。灯りがついているトイレを開ける・・・。
     良かった・・・・。そこにはMさんの姿はなかった。「やっぱり外出してるんだ。電気がついてないお風呂場にはいるはずがない」
     お風呂場の扉を開けた・・・。洗い場に倒れているMさんがそこにいた・・・。 「絵描きナース!」
     絵描きナースが押さえる腕には、脈打つ様子はなかった・・・・。
     「要支援1」。週1回利用していたデイケアからケアマネージャーに連絡が入る。
     「休むときにMさんから連絡がなかったことはない、何かあったのでは???」ケアマネージャーも、デイケア相談員の連絡に呼応する。「Mさんが休むときに連絡をしないのはおかしい!」
     ケアマネージャーはMさんのマンションへ直行。管理人さんもケアマネージャーの胸さわぎをすぐに受け止め、鍵を開けて中に入ることをすぐに決断してくれた。
     「しかしこの予感が取り越し苦労だったら・・・、本人の許可もなく、鍵を開けて中に入っていいのだろうか???」
     ケアマネージャーから私たちに連絡が入る。
     月曜日、突然の用足しで、デイケアに連絡を忘れることもあるかもしれない。朝、外出したとしたらまだ昼過ぎ・・・、帰ってないのは普通に考えればよくあること。私は、Mさんをよく知る管理人、ケアマネージャーの予感よりも、「一般的」を重視してためらった。
     Mさんが話していたことを思い出す。「ほとんどの用事を午前中に済ませて、疲労が出てくる午後にはなるべく外出しないようにしているの」
     「夕方に連絡をして、それでも電話に出ないようだったら、管理人さんに鍵を開けてもらって部屋を確認しよう」ケアマネージャーに伝えた。
     数分後、またケアマネージャーから連絡が入る。「管理人さんが、おかしいからやっぱり部屋の中を確認するとMさんの部屋に向かったので一緒に確認してみます」絵描きナースと急いでMさん宅へ向かった。事務所から3分もかからないMさん宅前でケアマネージャーに会い、報告を受けた。
     鍵を開けたがチェーンがかかっていなかった。Mさんは、自宅にいるときには必ずチェーンをかけている。かかっていなかったので、「家にはいない。やっぱり外出している」と、中は確認せず、また鍵を閉めて出てきたところだった。夕方再度連絡してみて、電話に出ないようならば、部屋の中を確認することを確認し合い別れた。
     夕方、ケアマネージャーが電話をしたがMさんは出ない。そして、自宅内に入ってみると、そこにやはりMさんはいたのでした。
     ケアマネージャーやヘルパーに常日頃、「自分がどうなろうと、あなたたちには迷惑をかけないからね」と話していたそうです。
     警察が本人の足取りを調べるために、近日の様子を尋ねる。今日は月曜日。管理人さんは、商店街で買い物をしているMさんを土曜日の午前中に見かけたと話す。すると、和室のテーブルの上にレシートが並べられていて、そこに買い物をした時間が打刻されていた。まるで、管理人さんの話しを証明するように。
     家にいるときには、必ずチェーンをしていたMさんが、この日だけはチェーンをしていなかった。私たちが玄関から入れるように気づかっていたのでしょうか・・・。
     「今日はデイケア利用日。連絡をしなければきっと、あの人たちのことだから(デイケア相談員・ケアマネージャー)、気づいてくれるでしょう・・・」Mさんの声が聞こえてくるようです。
     かかわってくれた人たちには迷惑をかけず、だけれども何かあったときには自分を見つけやすいように・・・。Mさんはこんな最期まで心配りをしてくれていたんでは・・・、と思わず感じてしまう。
     ケアマネージャーSさんはまだ若い。しかし、「最期に連絡を取ったのはいつか?そのときに体調について何か話していたか?いつも持ち歩いていたものは?」警察の聞き取りに対して声を震わしながらも気丈に対応しているSさんが神々しくさえ見えた。
     夫とは離婚。二人に子どもはなく、親族は姪のみ。しかし、この急な報せを連絡をしていたが、Mさんが自宅にいる間にはとうとう連絡がつかず、その後の連絡は警察に委ねた。
     几帳面で、毎日の習慣を欠かさずに生活していたMさん・・・。その生活ぶりを知る管理人さん・ケアマネージャー・デイケア相談員が、一人旅立ったMさんを、すぐに自分たちに出逢わせた。この方たちだけではない、Mさんもこの人たちに気づいてもらおうと、チェーンをかけず、この日を選んで旅立ったとしか思えない。
     遺体が運ばれて行き、Mさんの部屋で見つかった鍵で警察官が戸締りをする。
     「沢○さん、あれっ!」
     警察官が持っているMさんの鍵には、「おおた高齢者見守りネットワーク」で取り組んでいるSOSキーホルダーがついていた。
     先月でしょうか・・・。SOSキーホルダー登録のために事務所に訪れたMさん。登録が終わり、自宅の鍵にキーホルダーを付けたいが、力が入らず私が鍵に付けてあげたのでした。
     「これで安心!」事務所の玄関を出たところでMさんを見送った。
     専門職である自分の無力さが大波のように自分に襲いかかってくる。無念の想いが駆け巡る。これ以上は何もできない。仕方のないこと・・・。自分を言いくるめることはいかようにもできる。
     でも、今回だけは、専門職である自分の無力さをすべて被りたい。この無念さを自分のエネルギーに変えたい・・・。
     自分を知ってくれている、いつも気にしてくれている、手をさしのべてくれているという存在の心強さを改めて感じている・・・。それは家族・親族とは限らない。手をさしのべてくれるのは、手が届くところにいる人。手をさしのべられるのは地域でしかできない。
     この想いを、強く強く感じている。
     Mさんの最期の姿が今も目に焼き付いている。自分を奮い立たせよう。今、感じている様々な想いを心に刻もう。何も大きなことを言うつもりはない。
     せめて、自分が働くこの地域だけは、一人暮らし高齢者を気にしている、隣近所で声をかけあっている。そして、私たち専門職に、高齢者の異変、気づきがすぐに届く。そんな本当の意味でのあたたかい地域ぐるみのつながりを築いていくことを誓いたい。
    ちなみに我が包括支援センター看護師を、なぜ「絵描きナース」と呼んでいるのかについてはこちらの記事をご覧ください。
     
    P1070151.jpg

    事業所: 未分類

    カテゴリー:タグ:
    Pocket
    LINEで送る

    “無題です” への1件のコメント

    1. SECRET: 0
      PASS: 3115f2e9f34639997ae6ac21ddcde094
      自分が無力だと感じるとき、そこに何かの力が働くと信じています。
      きちんと喪の期間を経て、また歩き出せるよう祈っています。

    コメントを残す

    CAPTCHA